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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(あ)2774号 決定 1958年2月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大塚喜一郎の上告趣意第一点及び弁護人山崎季治の上告趣意第三点について。

所論はいずれも事実誤認の主張、即ち原判決が被告人の本件所為を被害者藤川光春の暴行に対する自己の権利防衛のために已むことを得ざるに出でた正当防衛若しくは防衛の程度を超えた過剰防衛であると認定しなかったことを非難するものであって、適法な上告理由に当らない。(なお原判決は措辞適切でないところがあるけれども判文全体の趣旨からすれば、被告人は第一審判決の判示する被害者の急迫不正の侵害から容易に逃避し得る状況にあったのであるから被告人の本件所為は已むことを得ざるに出でたものということはできないと認めるというにあるのではなく、第一審判決が判示するように、被告人が容易に逃避可能であったこと、成人した被告人の子供達が一室を隔てたところにいたのにこれに救援を求めようとしなかったこと、被害者は泥酔していたこと、他方被害者と被告人とはかねて感情的に対立していた諸事情からすれば、被告人の本件所為は被害者の急迫不正の侵害に対する自己の権利防衛のためにしたものではなく、むしろ右暴行により日頃の忿懣を爆発させ憤激の余り咄嗟に右被害者を殺害せんことを決意してなしたものであり、その措置も已むことを得ざるに出でたものとは認められない。従って正当防衛行為ではなく、又防衛の程度を超えた過剰防衛行為でもない旨を判示した第一審の判断を肯認したものであること明らかであり、被告人の本件所為が右認定の如く急迫不正の侵害に対し権利防衛に出でたものでない以上、正当防衛乃至過剰防衛の観念を容れる余地はないものと解すべきであるから、原判決の右判断は相当である。)

弁護人大塚喜一郎の上告趣意第二点及び弁護人山崎季治の上告趣意第一点について

所論はいずれも量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当らない。

弁護人山崎季治の上告趣意第二点について

所論は判例違反をいうけれども原判決の判文全体の趣旨が上記のとおりであって、被告人の本件所為が暴行に対する自己の権利防衛のためにしたのではなく殺意に出でたものである旨を判示したものである以上所論引用の各判例は本件に適切ではなく、所論の実質は事実誤認の主張であって適法な上告理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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